ブループラネット賞創設30周年記念シンポジウムへ
新橋珈琲でモーニング
新橋駅の傍の新橋珈琲でモーニングを摂りました。
浜離宮朝日ホール
ブループラネット賞も本年度は創設30周年の記念すべき節目を迎え、来る8月25日に過去の受賞者3名ををお招きし、記念講演会ならびに環境に関する共同提言の発表を行われました。
ブループラネット賞創設30周年 記念シンポジウム
【記念講演】
エリック・ランバン教授
2019年ブループラネット賞受賞者
ブライアン・ウォーカー教授
2018年ブループラネット賞受賞者
デイビッド・ティルマン教授
2020年ブループラネット賞受賞者
【提言】
-3名の受賞者による環境問題に関する共同提言 発表
-ユース環境提言 発表
ブループラネット賞創設30周年を記念し、8月25日に浜離宮朝日ホールで、過去の受賞者3名の記念講演ならびに環境に関する共同提言の発表を行いました。
同時に、日本の若者による環境提言の発表、および受賞者と若者によるパネルディスカッションも行いました。
■■3名のブループラネット賞受賞者による環境問題に関する共同提言■■
誰ひとり取り残さない、自然と積極的に関わる未来の実現に向けて、持続可能性の3つの柱を軸として作られた社会を想像してみてください。そこでは自然は保全され、私たちの生活、農地、都市に再び取り込まれているでしょう。社会的正義と社会的平等が政治的決断を下す基本的な価値となり、今日広まっている極端な形の社会的不平等は回避されるでしょう。誰もが自らの熱意や可能性を実現し、価値ある人生を送るために、すべての人々に多様な経済的機会がもたらされるでしょう。そのような社会は、共感、正義、持続可能性、そして知識といった基本的な価値観を含むものとなるでしょう。
このようなビジョンを実現するための過程では、私たちは価値観と目標に焦点を合わせ続けなければなりません。楽観的思考法を養い、計り知れない想像力を働かせることで、社会が作り出す文化と調和する解決策を私たちは見い出せるでしょう。そうすれば、短期間でも上手くいくでしょうし、継続性も担保できます。出発点は、これまで私たちが歩んできたやり方は不安定で持続不可能であり、未来の世代を危険にさらしていると認識することです。将来への不安があると、私たちはこれから進むべき確実で最善の道を定めることができなくなります。しかし私たちは、どんな未来を望まないのかなら容易にわかります。したがって、元に戻れなくなるかもしれない、望ましくない道筋を避けることができるのです。望まない未来がわかれば、私たちはいくつかの許容範囲内の道筋にとどまることができます。そして、その中の特別な「最善」の道筋は、文化的な価値観やその時点での世界情勢で決まることになるでしょう。
持続可能に変化していくための多くの方法は広く知られています。たとえば、再生可能エネルギーへの切り替え、健康にも環境にも良い食生活への移行、建物の高効率化、都市の緑化、保護地域ネットワークを拡大した上での生物多様性の保全、低所得国の農家が持続的に生産性を向上できるようにするための支援、自動車の電気化、森林・農地の管理による生物多様性と生態系サービス提供の強化、より公正な世界を目指す投資、対立ではなく協力による解決の奨励などです。多くのイノベーションがすでに創出されていますが、その実践については速やかにスケールアップする必要があります。これと同時に、今ある持続不可能なシステムの段階的廃止を積極的に進める必要があります。これらを進めていく過程では、多くのブレークスルー、失敗、そして驚きが待ち受けているでしょう。だからこそ私たちの世界にレジリエンスを確立する必要性があるのです。
求められる変化の中には困難を伴うものもあるでしょう。変化は複雑なシステムの中で起こるため、レジリエンスが確立する前には、小さな混乱が「崩壊」を引き起こし、その後に速やかに再構築される可能性が高いでしょう。短いながらこの再構築の段階こそが、重大な変化が起こりうる時です。こうした変化の様式を理解し、もたらされる機会に備えることが、劇的な変化にうまく対応する上で重要になります。 私たちの社会や自然との関係におけるこのような大きな変革は、市民社会組織、地方レベルから国際レベルに至るまでの政府機関、そして民間セクターの協力があって初めて可能になります。多様な個人と組織が手を取り合い、力を合わせ、共通の関心を持つ個々の課題に取り組むことが必要です。そしてその協力には、参加者同士の信頼を深めることが必要でしょう。
文明は長い年月をかけて築かれるもので、重要な目標として将来世代の繁栄が含まれなければなりません。若い世代の声にもっと注意深く耳を傾け、彼らが発するメッセージに留意する必要があります。さまざまな世代、職業や地位の人々とのコミュニケーションを促す必要があります。未来について語り、社会的論点になるような広い議論のテーマとし、今のリーダー達の決断に影響を及ぼすことが必要です。私たちの子どもたちの未来をむしばみ、彼らがこれから生きていく環境の質を悪くするような決断を、私たちはもうこれ以上、下し続けることはできません。私たちの未来は人間という存在の中に大切なものとして守っていきたい道徳的価値観によって築かなければならないのです。
■■■ユース環境提言■■■
異常気象を報じるニュースで「観測史上最高」「記録的」といった言葉を日常的に聞かされています。熱波、豪雨、台風、干ばつなどの災害によって、いつも世界のどこかで傷つき、暮らしを奪われ、生命を失っている人々がいます。現在の温暖化対策のレベルではパリ協定1.5℃目標を達成できる見込みはなく、気候危機はますます深刻化し、将来世代が平和で健やかに暮らすことのできる権利を損なうことになります。
一方、私たちの身近では高齢化や過疎化により人の手が入らなくなった里山が荒れ、競争に強い生きものしか生息できない環境が広がっています。生物多様性の保全は、人類が生きていくために守るべきものですが、私たちはそれだけを主目的としなければならないのではありません。一人ひとりのかなえたい夢を追いかけることが「結果として」生物多様性の保全につながるなら、それで良いと私たちは考えます。
大切なのは誰もが主体的に関わり、今だけでなく未来の地球のために選択すること。そのためにとるべき行動を、私たちはここに提言します。
ユース環境提言起草メンバー
【気候変動問題に対する提言】
パリ協定1.5℃目標達成につながる温室効果ガス排出削減目標の設定を政府・自治体・企業・大学に求める
現在世代が不十分な温室効果ガス排出削減目標を設定することは、次の世代がその分、より大きな排出削減の責任を負うことを意味します。日本政府や自治体が目標を引き上げ、政策を強化し、石炭火力発電や鉄鋼業・化学などの大規模排出源の対策強化を促す必要があります。また、大規模排出源である企業や大学も抜本的に行動を強化すべきです。その対策は原子力やCCUS、アンモニア混焼などの不確実でリスクの高い解決策ではなく、省エネルギーと再生可能エネルギー100%への公正な移行が中心であるべきです。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、パリ協定の1.5℃目標のためには、2050年までにCO₂排出量を実質ゼロにし、その他の温室効果ガスも大幅に削減すること、そして2030年までにCO₂排出量を約半減させることが必要と分析しています。Climate Action Trackerによれば、日本政府が掲げる温室効果ガス排出削減目標(2013年度比で2030年度までに46~50%削減)では、パリ協定の1.5℃目標の達成には不十分で、これを62%削減へと引き上げる必要があります。一般市民の行動も重要ですが、日本全体における家庭と中小企業の排出割合は28.9%であり、それだけで2030年までの62%削減や2050年カーボンニュートラルが実現できないことは明らかです。
自宅や学校・職場・自治体の「電気」を切り替える
CO₂排出量が少なく、原子力リスクもなく、自然環境破壊リスクを最小化し、再生可能エネルギー中心の電気を販売している電力会社に契約を切り替えましょう。自宅での切り替えはもちろん、通っている学校、職場、自分の住む自治体へと広げていくことも大切です。
コンセントのこちら側での節電は大切です。しかし、コンセントの向こう側の脱炭素も重要です。同じ発電量でも石炭火力発電と太陽光発電ではCO₂排出量が数十倍も違います。電力会社が石炭火力発電を拡大させたら、一般家庭での節電努力によるCO₂排出削減は水の泡になってしまいます。日本国内の石炭火力発電所は163基が運転中、8基が計画中・建設中です。
また、2011年の東京電力福島第一原発事故、2022年のロシア軍によるチョルノービリとザポリージャの原発への脅威を思い起こしても、原子力に甚大な安全リスクがあることは明らかです。また、次世代に核廃棄物の負担を押し付ける構造的な問題は解決の見通しが全く立っていません。再生可能エネルギーにも自然破壊の懸念はありますが、化石エネルギーや原発のそれと比べるとはるかに小さいと言えます。ラッペーンランタ工科大学の研究チームなどが示しているように、省エネルギーを徹底した上でどうしても必要なエネルギー需要を再生可能エネルギー100%で賄うことは可能で、現実的です。
「食」を変えてより健康に・より低炭素に
個人の行動変容に加えて行政や企業が環境負荷の高い食生活を改め、より健康的で持続可能な食料システムへの転換を推し進めるべきです。肉食(特に牛肉)を減らして植物性たんぱく質に切り替えること、空輸された食料の利用を減らすこと、パーム油などにつきまとう環境問題を解決すること、それらを個人で実践するとともに、取り組みを広げるように行政や企業に求めます。特に環境負荷の高い食料については税を導入して消費を抑制することも検討すべきです(肉食税など)。
食料の輸送・保管にかかるエネルギー、土地利用及び土地利用変化など、食料関連のCO₂排出量は膨大です。研究によれば、人為的な温室効果ガス排出量の約3分の1は食料システムによるものとされています。特に牛肉は、げっぷ等によるメタン排出が多く、温室効果ガス排出量が大きいことはよく知られています。また、畜産のための土地利用変化による自然環境破壊も深刻です。さらに、肉食を減らすことは、気候変動や自然生態系保全のみならず、人の健康にも良いことがわかっています(子どもの場合はビタミンB12が必要なので赤肉が必要という指摘もあります)。欧米を中心に先進国で肉の大量消費が続いており、貧しい途上国では非常に少ないという南北格差の問題もあります。
「意識的に控える」が未来を変える
「環境問題」というとあまりに大きすぎる問題で、自分一人がなにか行動したところで特に効果はないと思ってしまいがちです。しかし、そんなことはありません。Oxfamによると、世界で最も裕福な10%の人々が、全CO₂排出量の半分を排出しているそうです。ここに該当する日本人は、世界では中国、アメリカにつぐ水準。つまり、私たちが行動に変化を起こすことは、私たちが思っているよりも大きな気候危機への影響力を持っているのです。
なかでも例えば、安価で大量に生産されるうえ、すぐに捨てられてしまいがちなことが問題視されているファストファッションの消費を抑えることや、使い捨て製品の使用を控えることは、気候変動対策として有効です。またそれを生産する企業に対しても、環境負荷の大きい製品は買わないというメッセージを間接的に伝えることで変わっていくことにつながります。
ペットボトルやプラスチック包装の消費は「リデュース・リユース・リサイクル」と言われますが、なかでも一番環境負荷が低いのは「リデュース」つまり、そもそも使わない、消費しない、生産しないことです。必要がなければ買わないことを第一に行動するようにしましょう。
気候変動を授業に 企業は社員研修を
今後、さらに深刻な被害を受ける次世代への気候変動教育は重要な意味をなします。
現在、小中高で環境問題に対する授業は取り入れられていますが、さらなる強化が必要です。ティッピング・ポイントについての教育もすべての子どもたちが受けるべきです。大学や専門学校においても気候変動への対策について、環境配慮についての授業の導入が義務化されるべきです。
また、学生のみではなく、実際に気候変動対策を取れる立場にある大人への教育も重要です。刻々と更新される地球の状況を取り入れるべく、企業内においても積極的に勉強会を開くなどの行動が必要です。
わたしたちはその行動をとっていることを周りに広めていく。「周りも別に行動してないし、気候変動もなんとかなるだろう」と錯覚してしまっているのが今の社会です。
【生物多様性の保全に対する提言】
大切なのはいわゆる"大自然"だけではない
生物多様性の保全と聞いてイメージするのは、熱帯雨林のような原生林や絶滅危惧種の保全を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。もちろんそれも大切です。2010年に開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)では、陸域の17%、海域の10%を保護区とする目標が掲げられました。しかし、生態系は地球上の多様な生物が互いに影響し、補完し合うことで維持されています。森から海まですべての生きものがつながることで、人々が幸せに生活を送るために必要な自然の基盤が形作られているのです。そこで、近年注目されているのが「OECM(その他の効果的な地域をベースとする保全手段)」です。環境の保全を目的とする保護区ではなく、里山のように人間の居住や農業などの生産活動が営まれる"その他"の地域を指し、このような地域を保全することで、さらに効果的な保全につなげる狙いです。2021年のCOP15では、そのOECMも含めて生物多様性にとって重要な陸域と海域の30%を2030年までに保全するという目標が掲げられました。
そう、生物多様性をより豊かにするために必要なのは、大自然だけではなく、身の回りの自然まで、あらゆる環境をよりよいものにしていくことなのです。
失われた都市の自然、ベランダから始める回復
難しい話はここまでにして、ここで楽しい生物多様性保全を紹介しましょう。生物多様性の保全は決して他人事ではなく、すでに開発されてしまった場所でも、自宅でも誰でもできます。例えば、ベランダに植木鉢を置く。その地域に在来の植物を植えてもいいし、周りに緑地のある地域や鳥が多くいる地域なら、土を入れてそのまま放置でも構いません。風や鳥が植物の種を運んでくるでしょう。中身は芽吹いてからのお楽しみです。植木を置いたら、その植木をしばらく観察してみましょう。きっとミツバチやチョウなど様々な生きものが利用してくれるようになるでしょう。ベランダにその地域にあった植物を植えることで、生きものたちが"寄り道できる場"を作ることができるのです。その地域本来の生態系の回復をちょっとした工夫で助けることができます。夏休みの自由研究にいかがでしょうか。
温暖化によって高山帯の生物や極地の生物は追い込まれ、南方の生きものが北上し、生態系が変わりつつあります。注意が必要な部分もありますが、気候変動対策を講じることも生物多様性をより豊かにするためにできることの一つなのです。
都市部では多くの自然が失われました。地方でも人手が加わらなくなり、多様性の失われた自然が取り残されてしまっています。しかし、失われたから「もうダメ」ではありません。そこから、より良い方向に変えることができるのです。
スーパーでもできる生物多様性への配慮
地産地消や認証マーク製品の購入など、消費者としてできることもたくさんあります。現在私たちの身の回りには、生物多様性に配慮して生産されたことを示す認証製品が増えています。環境や地域社会に配慮した管理・伐採を行う森林から生産された木材であることを示す「FSCマーク」、減少傾向にある水産資源の回復を目指し、持続可能で環境に配慮した漁業を表す「MSCマーク」、生態系や農薬の管理に関する基準を満たした認証農園の産物に付される「レインフォレスト・アライアンス認証マーク」などがその例です。
私たち消費者がこうした製品を積極的に選ぶことも、生物多様性保全の取り組みを後押しすることにつながります。購入するのはちょっと…という方もいるでしょう。それならまず、認証マークを探してみてはいかがでしょうか。マークを見つけたら、環境問題を少し意識するでしょう。あなたがまずその課題に関心を持つことが大きな一歩なのです。私たちの生活を支えながら、保全を頑張ってくれている生産者の方々に思いをはせるのもいいことです。パッケージ化された製品の向こう側に目を向けること、農業・林業・畜水産業の実態を知ることもまた大きな一歩です。ほかにも、子どもたちと一緒に認証マークを探してみるのも、かくれんぼのようできっと楽しんでくれるでしょう。それが、子どもたちへの環境教育につながり、将来の担い手を育てるきっかけになるかもしれません。あなたの行動をほんの少し自然思いに変えてみることが、目の前にある世界をもっと豊かなものに変えていくことにつながっていくのです。
この提言は以下のメンバーによって執筆され、他のユースメンバーの確認を経て掲載しています。
【気候変動】
国際環境NGO 350.org Japan 伊与田昌慶さん
Fridays For Future Yokosuka 原有穂さん
一般社団法人SWiTCH 佐座マナさん
【生物多様性】
生物多様性わかものネットワーク 小林海瑠さん、稲場一華さん
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